別冊リーガルカフェ|燃ゆるパリ フランス弁護士広瀬元康




Vol.7

取引先のフランス企業が倒産したら(1)

フランス経済も万全ではない。
遥かヨーロッパにパートナーにもつ日本企業にとっては
突然、取引先に倒産されるのはしんどい。
遠くはなれた日本企業でも慌てずに対処するには。


フランスの法律で定められた倒産手続(procédure collective)

日本では破産法、会社更生法…等と倒産法と分類される法律がいくつか別々にありますが、フランスでは商事法典の中に倒産法が組み込まれています。商事法典の6階フロアである600番台の条文が倒産法、ということで非常にわかりやすいです。フランスで企業が倒産したときにお世話になる裁判所も、商事裁判所(Tribunal de Commerce)です。日本では通常裁判所の民事部の中に倒産手続を扱う部がありますが、フランスでは完全に独立した裁判所なのです。

フランスの倒産法には、経済難が軽度のものから順に、会社保護(sauvegarde des entreprises)、会社更生(redressement judiciaire)、会社清算(liquidation judiciaire)と3種類の手続があります。順に商事法典ではまたもや綺麗に620番台、630番台、640番台の条文として、それぞれ整理されています。

一つ目の会社保護は、企業が支払停止に陥っていないものの、自力経営困難と判断したときに自己管理として申立てるものです。二つ目の会社更生は、支払停止になったものの更生の見込みがある場合で、三つ目の会社清算は、更生の見込みがないと裁判所に判断されたときに行われます。後者二つは、倒産会社だけでなく、債権者等の外部の者が申立てることもできます。

実際には、裁判所は一定の観察期間(période d’observation)を設けて更生の見込みがあるか判断しますが、会社保護→会社更生→会社清算とすーっといつの間にか進んでいくようなケースも多いのです。

いずれの手続でも、倒産の事実は登記簿に公表され、取引先は相手方にそのような事態が起きたときには経済的信用が破綻したと判断することでしょう。だから、倒産手続に入るときには心してかからねばなりません。

フランス企業の財産状態を事前に察知するには

日本と異なり、フランスでは上場の有無にかかわらず、全ての会社は一定の財務書類を商事裁判所に毎年出すことが義務付けられています。そのため、企業の財務状態は万人に公表され、その意味では非常に透明性が高い制度になっているのです。

そのため、取引先のフランス企業の経済的信用に疑いが生じたときには、興信所などを使うまでもなく、財務書類を取り寄せて閲覧すればよいのです。もちろんそのためにはフランス語で手続をしますので、ローカルの事情に詳しいカウンセルに頼んだほうが簡単です。


債権の届出-受け身では誰も教えてくれない法定期限

フランスでは、倒産手続の開始決定が裁判所により下された場合にはBODACCという官報に公告されます。倒産会社に対して債権がある者は、その日から数えて2ヶ月以内(外国の債権者は4ヶ月以内)に、債権者管理人(mandataire judiciaire)に対して債権の届出をしなければなりません。

問題は、特に外国の債権者の場合、倒産手続の開始がじっとしていても誰からも知らされずに進んでゆくことが多いのです。気がついたときには期限を過ぎていた、ということにならないよう、情報収集は能動的に行わねばなりません。取引先が倒産した事案で受任すると、フランスにいる代理人弁護士である私にも何ら情報が伝わって来ずに裁判手続が進んでゆくので、管財人と裁判所にはしつこいくらいに最新の状況の確認を求めています。

届出の内容は、法律の条文に書いている事項を事務的に盛り込んで債権届出書を作るのみなのでさほど難しくありません。強いて言えば翻訳作業が面倒なくらいです。定型書類が多い場合には、大枠のフォームのみ訳して大目に見てもらっています。

ただ、実際には無担保の債権者が債権の届出をしても、配当を受けられる見込みが非常に少ないのは日本と同じです。特に労働者の給料債権は絶対的に優先されますから、抵当権等の担保権がついている債権者ですら、配当を受けることは現実に難しいのです。

ただ、企業側の自衛策としては、倒産会社に対する債権と自社の債務が相互に関連するもの(発生原因が概ね同じ)であれば、相殺することができます。現実的な回収方法としてはこれが唯一の見込みなので、何とか理屈をこじつけてでも相殺にもってゆこうとするものです。

気になる契約の動向-でもフランス裁判の進行をうまく察知するのが難しい

取引先が倒産した(又はしそうな)場合に、その取引先と重要な契約(一回的なものでなく、継続的にその会社の特許権のライセンスを受けることが肝になっているような場合が好例)を結んでいれば、その契約が一体どうなるのか、これはビジネスの命運を左右する一大事です。

倒産会社との契約は、その債務の履行が危ういものなので、多くの契約で、相手方に倒産手続等が始まったときには、もう一方の当事者は一方的に契約を解除できる取り決めになっています。ビジネスの契約書をお手元にお持ちの方は、後ろから4分の1くらいのところにありがちな解除条項をご覧になってください。

その一方で、逆に切られては困る契約もあるのです。そのような場合、倒産会社のビジネスを承継して立て直してくれる企業との関係を取り持つことが重要です。また、管財人にも契約の承継の可否を決める権限がありますから、契約の承継がいかに必要か、様々な形でアピールします。

次回に詳しく説明しますが、倒産会社を承継する企業は、いくつか候補が上がったときには、商事裁判所がその中から選んで決めます。そのとき、重要な事項としてどの契約を承継するかしないか、裁判所が特定します。倒産会社から見た契約の相手方(つまりその契約での債権者)は裁判所に意見を述べることができますが、その機会を掴むのが難しいのです。特に外国の債権者の場合、現実にはなかなか情報が伝わってきません。

倒産会社に対して重要な債権(契約)を持った日本企業のケースで、債権者管理人には債権の届出をしたにもかかわらず、裁判所や管財人にはそのことが伝わっていなかったのか、はたまた通知の郵便がどこかで紛失したのか…。せっかく承継者が現れてその重要な契約を承継してくれることになったのに、裁判に参加する機会を逸した(知ったときには期日が終わっていた)ために、判決ではその日本企業が当事者になった契約が、承継する契約のリストから省かれ、「当事者間で後日協議せよ」ということになったケースがあります。

そうなると、それまで裁判所に選んでもらうために小さくなっていた承継者は、一気に強気に出てきます。当然のことでしょう。承継者は裁判所から命じられていない以上、その日本企業と契約を承継しない自由がありますから、契約を結ぶバーターとして自分に有利な条件を押し付けてきます。私の担当した案件では、粘り強く裁判外で半年以上にわたり行ったり来たりの交渉をした結果、何とか当初予定していた形での承継を実現させることができました。


倒産会社とは関係を終了させたい場合でも-税務上の損金算入の問題がある

フランスの取引先が倒産し、その会社に債権が残っているものの回収はほとんど期待できない、今後はその取引先と関係を終わりにしたい、というような日本企業でも、フランスの倒産手続の状況を証明する公的文書を求めて来られる場合があります。フランスに限ったことではないでしょうが、税務上の損金算入のためです。具体的にどのような書類があれば税務署が納得するかは、日本側で税理士に予め相談し、それに合わせて書類を集めたほうが合理的でしょう。

フランスの場合、通常は簡単で、商事裁判所に倒産手続の状況が明確に公表されますから、それをインターネットで取り寄せることができます。ほんの数ユーロからせいぜい数十ユーロでできます。ただ、公表されている書類が多いのと、当然ながら全てフランス語ですので、どの文書がそれにあたるのか、は自力で判断するのが難しいかもしれません。

ただ問題なのは、倒産手続が始まりはしないが、今にも始まりそうな場合です。その場合は、訴訟という形で取引先を訴えて勝訴判決、そして執行不能というところまで踏み込まねばならない場合もあるでしょう。金額にもよりますが、請求額がある程度大きい場合で、請求の理由も一応はっきりしている場合には、その裁判が倒産手続を開始させて容易に損金算入に持ち込める引き金になるかもしれません。

裁判は訴える側にとっても多大な手間と費用がかかりますから、あまり実益のない場合には、やらないに越したことがない、というのが私のスタンスですが、状況によっては上記のようなこともありうるのです。

このとき注意すべきなのは、訴える相手が単なる取引先であれば構わないのですが、訴える側が被告会社の経営陣と何らかの共通の利害関係を持っているなどという事情がある場合です。このとき、自己が経営する会社を意図的に破産に追い込んだとして、訴えた方が逆に民事上の経営責任を問われたり、背任等で刑事告訴されることも皆無ではありません。このあたりは法的にも難しい議論があります。




次回は…

次回は、倒産会社を買収したい、と思った場合にどうするか、という視点で検討しましょう。













広瀬元康 HiroseMotoyasu
大阪出身、フランス弁護士、日本弁護士
本誌「法務翻訳」でもおなじみ。