別冊リーガルカフェ|燃ゆるパリ フランス弁護士広瀬元康




Vol.5

フランス会社設立事情(1)

日本にいながらでもできる会社設立
書類が揃えば意外に簡単だ
問題は現地で誰が運営するのか
プロフェッショナルとの連携が肝要


外国人の個人起業家が会社を設立する

前回までお話したフランスの厳しいビザや労働法にもめげず、果敢にもフランスで新会社を設立しようと考える方は多くみられます。私も弁護士としてほぼ毎月何件かはそのような相談を受けます。

大手の日系企業は、何十年にもわたりフランスで子会社を持って経済活動を活発に欧州で展開していますが、むしろ本稿では個人起業家や日本の中小企業が一からフランスでビジネスを始める場合を念頭において、よくある問題を検討しましょう。

まず、会社を作ろうとすればどのような形態の会社にするか、決めねばなりません。

どの種類の会社を選ぶか

フランスの会社は、日本以上に細かく種類が分かれています。株式会社のほか、有限会社、合名会社、合資会社、簡易型株式会社…と会社法施行前の日本式の分類に似た部分もあります。複雑な会社になるほど、コーポレートガバナンスや会計監査の規制も厳しくなるのは、日本と同じです。その管理コストとの兼ね合いで、慎重に決める必要があります。

私が経験したケースの多くで、できるだけ法律の規制が少ない形態の有限会社(SARL)を依頼者に勧めています。株主も社長も一人から可能で(この場合EURL)、資本金の下限もありません。また、法律が定める一定規模に達しなければ、会計監査人をつける必要もありません。


定款の作成

弁護士が会社の設立に最も深くかつ注意深く関与する部分は、定款と任命議事録の作成です。

その中でも、一番神経を使うのは会社の目的です。企業の法務に携わったことのある方はご理解いただけると思いますが、会社は定款に記載された会社の目的外のことができないので、定款をいちいち変更しなくても多様な業務拡張ができるよう、定款にはできるだけ広めに書きます。

だからといって、何もかも含めればよいかといえばそうではなく、規制業種や資格を必要とする業種(やそれを連想させるようなこと)を書くと、面倒な問題が起きるので注意が必要です。フランスではかなり多くの業種が許認可を必要とします。

例えば、世界的な観光国であるフランスでは、日本人向けの旅行業を起業しようとする方も多いですが、歴史的建造物のガイドには資格が必要なため、「旅行業」などと定款に書くと、登記申請やビザ申請のときに「ガイド資格を提出しなさい」と言われることがあります。その他にも、レストラン業ではアルコールのみを提供できる資格(カテゴリー4のライセンス)と、食事を伴う場合に限りアルコールを提供できる資格(カテゴリー3)が分かれており、通常のレストラン(カテゴリー3で十分)で「バー」を定款の目的に含めると、カテゴリー4の証明を求められてひっかかることがあります。教育業や、不動産業、インテリア関係を会社の目的にする場合でも、一悶着ある場合があります。

また、資格を要しない職業でも、ある程度専門知識がないとできないであろう、と当局の担当官が判断すれば、「何のディプロムを持っているのか?」と訊ねられます。日本の資格や卒業証明書を翻訳して出しても、今度は「そのレベルがフランスの尺度でどの程度のものか、お墨つき(reconnaissance)を得て来い」ということになります。そうなると泥沼です。EU内ならともかく、日本の資格の価値をフランスで公的に認めてもらうのは、なかなか難しく、時間ばかりが過ぎます。警察でビザ申請のときに意地悪な担当官に当たると、こうなります。

弁護士の立場上、正面から勧められることではありませんが、定款の記載上は資格を要しない「コンサル」や「通訳」という建前で、グレーゾーンの活動をされている方もいます。

誰を代表者にするか

フランスで信頼できるビジネスパートナーが既にいて、その人が代表者になってくれる場合には問題ありません。ただし、それがフランス人ですと簡単ですが、日本人であればビザの問題をクリアしなければなりません。

問題は、フランスで会社代表者にできるような人が見当たらず、日本にいる人を社長にしてフランスで会社を登記したい場合です。日本で同じことをしようとすればどうか、考えましょう。

日本の登記実務では、新しく登記する株式会社で取締役の全員が日本の非居住者であれば(誰も日本に住所を持たない場合)、日本の会社は設立登記ができないのが一般です。

この点、フランスは日本より柔軟で、役員が非居住者のみという会社も可能です。昔から陸続きのため、外国にいる人が会社を作るということが一般的だったのでしょう。そのための手続として、非居住者の代表者になろうとする人は、パリであれば警視庁に社長になるための事前許可をもらう必要があります。この手続は意外と簡単で、本人のパスポート写しのほか、定款、役員の任命議事録、犯罪経歴証明書(これは本人が日本の警察本部に指紋採取に行く必要があり、10日程度かかりますが)をパリ警視庁に郵送するのみで、通常は1週間から10日程度で事前許可がおります。

その場合でも、フランスで誰か従業員として現地のマネージャーを雇う必要があり、その場合にはマネージャーの立場は労働者です。この人選と労働法をめぐる問題は、頭を痛めるところです。日本に社長がいれば、フランスの現地で業務が正常に行われているか、実効的な監督が難しくなるでしょう。マネージャーの人選を誤ったために経営が崩壊し、かといって解雇しようにもマネージャーに労働法で武装されて…というケースで泣く方は多いです。

パリの日系情報誌では、このような者を募集する求人広告がよく見られますが、現地在住の日本人といえども多士済々で、きちんとビジネスを取り仕切ってくれる人かどうかの判断は、容易ではありません。詳しくは書けませんが、一見すると真面目で品行方正に見える人が、とんでもない素性の人だったということが後で判明することもあります。日本で誰かから紹介を受けたような人でなければ、不特定多数を相手にする広告でマネージャーを選ぶ、ということは私の感覚ではお勧めできません。

どこを本店所在地にするか

フランスの会社である以上、フランス国内に本店所在地をおかねばなりません。それは、誰かの個人宅でもよいのですが、通常は商業賃貸借(bail commercial)を締結して、そこを本店所在地にします。営業権の譲渡を受けて会社を設立する場合(次回に詳しく説明します)は、商業賃貸借における賃借権はその営業権の不可欠な要素となりますので、複雑な営業権の譲渡契約をしっかり検討しなければなりません。この点は弁護士に相談したほうがよい部分です。

どうしても適切な住所が見つからない場合は、会社の住所を仮に貸すことを専門にした業者もあるようです。

日本の場合ですと、外国会社の日本法人の設立段階では、カウンセルとなっている法律事務所を仮の本店所在地にするケースも多いようですが、フランスではこの方法はあまり一般的でないようです。

登記申請

日本と同じく、会社を設立するには登記申請が必要です。登記は商事裁判所が管理しますが、CFE (Centre de Formalité des Entreprises)というところが窓口になります。

登記申請は、法律で義務付けられた公告等があるため、登記代行専門の会社に委任したほうが便利です。本人確認資料、定款、任命議事録、資本金の払込証明書、会社所在地の賃貸借契約、犯罪歴がないことの宣言書、非居住者を代表にする場合には警視庁の事前許可証明書、居住者を代表にする場合はビザの仮証明書(récépissé)等があれば機械的に登記ができます。K-bisといわれる登記簿謄本が得られれば、会社設立は完了です。

居住者を代表にする場合のビザについて少し付け加えます。既にフランスに他の身分(学生や就労ビザ)で滞在している人が、商業ビザに切り替える手続(身分の変更)があります。第1回のコラムで述べたように、これは結構技巧的な手続で、時間を要することもあります。いつまで待っても商業ビザの切り替えの通知が来ない…という段階で、新しく設立する会社の取引先からはまだ登記申請もしていないのにK-bisを要求されるということもあるでしょう。その場合に、ビザが出ていないのに会社設立だけはフライングしようと考える方もおられます。本来はできないことなのですが、パリに関してはそれを受け付けるのが実務の慣行のようです。ただ、社長としての活動をフライングで行うと、労働局等から何らかの取締りを受けた場合に資格外活動ということでビザの切替え手続に支障が出る場合もあるので、これをするのは相当なリスクが伴います。


その他やっておくべきこと

会社を設立すれば、同時にしなければならないことがあります。雇用者としての各種の社会保障拠出金の払込手続や、納税方法の選択等です。この点は、フランスでは非常に複雑なので、早めに会計士に相談するほうがよいでしょう。

会計士は、会社設立の初期段階から信頼できる人を探しておくことが必要です。なぜなら、フランスでは財務書類を毎年定期的に商事裁判所に提出することが法律上義務付けられ、そのためには会計士の証明が必要になるからです。





次回は…

会社設立の場合には、営業権(fonds de commerce)を新会社が他の会社から譲り受けてオーナーになるという形をとる場合も多く、例えばレストランの営業権は日本人もよくフランスで売買しています。次回は、営業権の売買についてお話します。













広瀬元康 HiroseMotoyasu
大阪出身、フランス弁護士、日本弁護士
本誌「法務翻訳」でもおなじみ。