別冊リーガルカフェ|燃ゆるパリ フランス弁護士広瀬元康


Vol.4

世界屈指の細かい労働法典-雇用者の苦悩(3)

微細な手続で雁字搦めに法定されるフランス労働法典
整理解雇の場合も雇用者は解雇者を保護しなければならない
一方解雇される従業員は分厚いケアを要求できる



前回のコラムでは、フランス法においては、従業員を解雇するための要件や手続が非常に厳しく複雑である点について説明しました。
従業員を解雇する場合には、雇用者はその従業員の退職後に生計を立てていけるよう、様々な配慮が求められているのです。


再就職のための時間を与える義務

解雇される従業員は、解雇されると決まった段階で、次の職を見つけるために転職活動をすることになるのが通例でしょう。雇用者は従業員に対して、そのような転職活動を妨げてはならないのはもちろん、転職活動のための時間を1日あたり少なくとも2時間(法定労働時間は通常1日7時間)与えなければなりません。

ポストが空けば優先的に再雇用

解雇された従業員には、自分を解雇した雇用主に優先的に再雇用してもらう権利が法律上保証されています。これは、解雇人数が何人であろうと認められ、雇用者は解雇通知書の中に、「あなたはポストが空き次第、優先的に再雇用される権利があります」という旨を明記しなければなりません。

従業員が再雇用を希望すればの話ですが、雇用者に対して優先的再雇用を要求します。このような要求があった場合には、雇用者はその従業員が再就職できるポストが空いた段階で、自らのイニシアチブで従業員に通知しなければなりません。

従業員のこのような再雇用優先権は、原則として労働契約が終了してから1年間続きます。


従業員が1000人以上か未満かによって異なる再就職斡旋制度


(従業員が1000人未満の場合)

企業で従業員数が1,000人未満の場合において、雇用者が従業員を解雇するときは、従業員に配置転換契約(フランス語の略称でCRPと呼ばれています)を提示しなければなりません。これは、解雇された従業員に対して一種の研修や職業訓練の機会を与えるものです。これのおかげで、解雇された従業員は最高で1年にわたり、それまで受けていた給与の7割ないし8割程度の給与を維持することができます。

このご時世、すぐに転職先が見つかるかどうかはわからないので、解雇された従業員にとってはありがたいものでしょう。もちろん、配置転換契約の恩恵を享受するかどうかは従業員の自由です。

雇用者は、どのようなタイミングで配置転換契約を従業員に提示すればよいのでしょう。それは、原則として、従業員の言い分を聴くための事前面接の機会です。そこで雇用者は従業員に解雇の理由(会社が経済難にあること…)などを説明しなければなりませんが、その際に配置転換契約がどういうものかを従業員に説明し、これを検討する機会を十分に与えなければなりません。

従業員は、提示された配置転換契約に対し、21日以内に、これを受けるかどうか、決定しなければなりません。21日以内に応答しなければ、従業員が配置転換契約)を拒否したとみなして差し支えありません。もしかしたら、この21日の熟慮期間内に、解雇通知書が当該従業員に届く場合もあるでしょう。その場合には、事前面接の機会にきちんと説明していたとしても、念押しとして、解雇通知書には配置転換契約について応答すべき期限と、これを拒否すれば解雇が確定する旨、明記しなければなりません。

雇用者が配置転換契約を従業員に提示する義務を怠った場合には、ペナルティーとして、その従業員の過去1年間の給与を平均して計算した月給の2か月分相当額を、失業保険を管理する機関に納めなければならなくなります。

従業員は、配置転換契約を受け入れたからといって、それ以外の面で不利に扱われることはなく、例えば法定された解雇補償金を受ける権利や、上に述べた優先的再雇用を受ける権利を失うことはありません。これらの点についても、雇用者は従業員にきちんと説明を尽くしておくべきでしょう。

(従業員が1000人以上の場合)

従業員数が1000人以上の場合にも、配置転換契約と似た「再就職休暇」というのがあります。雇用者が従業員を解雇する際に従業員に提示しなければならない点では配置転換契約と同様です。ただ、会社の規模が大きいので、どのような権利行使が可能な再就職休暇を提示するのかについて、企業委員会にお伺いを立てる…などと面倒な手続があります。

ちなみに、そのお伺いを立てるべき内容は、従業員にどういう方法で再就職休暇を通知するか、従業員の研修期間やその判断の基準、再就職休暇で提供する予定の研修内容、研修中に従業員がもらう月給、研修中にどういう社会保障を受けさせるか、研修受入先がどのようなところか等、多岐にわたります。

ちなみに、再就職休暇の期間は4ヶ月以上9ヶ月以下で、その従業員一人一人の能力や適性に応じて雇用者が決めるのですが、その前に企業委員会の意見を聴かなければならないということです。従業員は、再就職休暇をもらっている期間、解雇後でも月給の65パーセント相当の手当をもらえる反面、これは雇用者の負担になるので大変です。

1000人以上の従業員を抱える会社になった途端にややこしくなりますが、1000人はどのように数えるのか、複雑な例を挙げます。多国籍企業で、多数の国に支店がまたがるような会社の場合、1000人というのはEU全体で計算します。その場合でも、従業員数150人以上の国が何カ国あるかによっても扱いが異なり、その判断は専門家の意見を求めて慎重にする必要があります。

再就職休暇についても、これを従業員に提示するタイミングは、配置転換契約の場合と同様で、原則的には事前面接のときにします。従業員は、再就職休暇を提示されたとき、解雇通知書をもらってから8日以内に、受け入れるかどうか決定しなければいけません。この期間内に応答しなければ、その従業員は再就職休暇を拒んだとみなされます。


まとめ

雇用者が従業員をリストラすると決めた場合、このように従業員が再就職して生計の途を失わないよう、様々な角度からサポートする義務があるのです。

それを怠った場合には、そのこと自体に法的な制裁がはっきり決められていなかったとしても、再就職の斡旋情報について提示がなかったことによって再就職の機会を失ったなどと言われれば、従業員に訴えられて損害賠償しなければならなくなるおそれもあります。











広瀬元康 HiroseMotoyasu
大阪出身、フランス弁護士、日本弁護士
本誌「法務翻訳」でもおなじみ。