中国国際弁護士列伝

中国国際弁護士列伝 02

弁護士韓嶺虎

弁護士の優秀さを人間性としての豊かさに求める韓弁護士。
「中国が真に法治国家になったと言えるためには、弁護士が法廷で検察官を指差しながらと堂々と弁論することにある」と語る。
















韓嶺虎 LinghuHan 中国弁護士
1973年生まれ、中国吉林省出身
中国政法大学、慶応義塾大学院法学研究科(修士)
使用言語; 中国語、日本語、韓国語
専門分野; M&A、国際訴訟、知的財産権関連訴訟、企業の法律顧問、清算、労働紛争
2000年に中国弁護士資格を取得、以降、毅石法律事務所(北京・上海)、日本TMI総合法律事務所、大地法律事務所(北京)、徳恒法律事務所(北京)を経て、現在、立方法律事務所(北京)に勤務。




インタビュー


弁護士となってから何年になりますか。

弁護士になってから9年になります。


弁護士を目指した理由は何でしょう。

率直に言うと、正義のためとか、弱い者を助けるために弁護士になった訳ではありません。

学部時代の専門は経済法ですが、法律を選択した理由は、多分将来は法律関連の仕事が重視され、就職しやすいだろうという考えによるものです。

大学卒業後は、北京市で3年ぐらい警察として勤務しました。
仕事が全然面白くなく、また何時も時間的に他人に拘束されている感じが嫌だったので退職しました。

そこで、比較的自由自在な職種であると弁護士を目指しました。
警察を辞めて約半年間猛勉強し、弁護士試験に合格しました。

その時は、精神的にも、経済的にも本当に辛かったです。
毎日、妻から10元の生活費をもらって、昼は狭い図書館で、夜は古臭いアパートで勉強しましたが、エアコンもなかったので大変でした。

また、周りからは、誰もが羨む公務員の仕事をそんなに軽率に捨てたという批判を受け、弁護士試験に合格できなかったらどうすればよいか分かりませんでした。


専門はどのような分野でしょうか。

専門分野は商法ですが、日本企業の中国進出及び現地法人の運営において発生する法律問題の解決を担当しております。

具体的に現地企業の設立、M&A、知的財産権、技術ライセンス、国際貿易、外貨、労働、仲裁、訴訟等の業務を取り扱いました。


クライアントは、主に、どのような企業ですか。

これまでは、トヨタ、みずほ証券、本田、日産、日立、サントリー、伊藤忠、電通、電装、富士電機、ジャパンエナジー、日本ハムなど、主に大手企業が多かったです。

リーガルサービスを提供した経験を有し、日本中小企業基盤整備機構の国際化支援アドバイザーの職も兼ねております。


弁護士となって、はじめて担当した事案は、どのようものでしたか。

ある日系企業の労働紛争でした。

この企業の前身は国有企業で、日本側出資者が一部持分を購入し合弁企業に変更されたました。中国籍の従業員らはそのまま新しい合弁企業に受け入れられたのです。

ある中国籍の女性従業員が何時間も仕事をサボタージュしたために、日本側の経営者が派遣した日本人マネジャーは、彼女を解雇しました。

彼女の家族らは猛反発し、そのマネジャーに暴力を加えようとしたのです。その結果、当時勤務していた法律事務所に、会社側から依頼がきました。

私は、他の弁護士とともに、日系企業を代理して、女性従業員とその家族らと交渉することになりました。

交渉の場は、上海市郊外のある薄暗い喫茶店の個室でした。
女性従業員側はとてつもない多額の退職金を要求し、交渉は難航しました。

また、家族らは怒りの矛先を代理人に向かわせ、私たちに殴りかかる寸前でした。私は、警察の仕事の経験もあり、彼らの暴力的な態度に負けることなく、無事解決することができました。

そのとき、「弁護士の仕事は場合によっては警察の仕事よりも危ない」と感じましたね。


現在は、主に、どのような事案を担当されていますか。

主に担当している事案は国際訴訟です。

例えば、韓国の歌手RAINとある台湾系芸能会社間の契約紛争に関する訴訟などです。

また、M&Aでは、日本のある化学関連企業による中国企業の買収を手掛けました。

他に、知的財産権関連訴訟、企業の法律顧問、清算、労働紛争などです。


これまで手がけられた事案のなかで、もっとも印象深い事案は。

ある日系企業の清算案件を処理したことがあります。
このとき、お金の前では人間の弱さを強く感じましたね。

この日系企業は日本側出資者の100%出資による製造メーカーで、登録資本金は200万米ドルでした。

現地ではかなり大きい企業でしたが、日本側出資者は昔から付き合った現地のある中国人を経営管理者として採用し、日本の本社からは1ヶ月に1回ぐらいのベースで担当者を派遣して巡視する形でした。

この管理方式が事業失敗の種となり、企業を完全に他人に乗っ取られ、設立2年後は資産が3万米ドルぐらいしか残っていませんでした。

私は、さっそくこの清算案件を代理することになりました。
この企業の会計業務を担当したある日本会計士の中国人助手が企業の現金20万元を自分の手元に保管し、様々な理由を付けて、これを返してくれませんでした。

日本会計士に直接連絡して解決することを要請しても、自分の中国人助手が可哀想だという話ばかりで、企業の現金の返還を拒んでいました。

本事案は刑事事件として処理するしかないと中国人助手に警告したところ、彼は、私が以前、北京で刑事の仕事をしたという情報をどこからか得たらしく、恐れをなして、翌日すぐ現金を全部返還してくれました。

また、清算業務を処理する過程で、この企業の状況に詳しいある会計担当を雇って会計業務を処理させたところ、ついには彼まで企業の現金をネコババする事件が発生しました。

私は、やはり性悪説が正しいように思われたものです。
人間はお金の前では躊躇なく良心を捨て、他人の利益を損なう動物に過ぎないという想いが深く残った事案でした


留学は、どのような理由からですか。

私は中国吉林省朝鮮族自治州出身の朝鮮族なのですが、現地では中学校からは英語ではなく日本語を外国語として勉強しています。

私は中学時代から日本語の成績が優秀でしたが、弁護士になって上海のある法律事務所に勤務するまでには日本語を利用できる仕事をしたことはありませんでした。

この法律事務所では、主に日本業務を取り扱う事務所で、日本に留学した経歴を持つ弁護士も多数在籍していました。

彼らから日本業務を専門とする国際弁護士になるためには、やはり日本に留学し、日本の社会を自分の肌で感じる必要性を分かりました。
そのような理由から、慶応大学に留学し、商法を専門に学部ことになったのです。


日中の司法文化の違いについてどう思われますか。

日本の司法制度については、裁判官、検察官及び弁護士の素質が非常に高く、互いの業務関係も法律に則った比較的公平な関係であるという印象を受けています。
特に、弁護士の権利が手厚く保障されている印象が強いです。

中国の場合は、裁判官、検察官及び弁護士の素質はばらばらで、弁護士が裁判官と検察官の権力に従順しなければならない場面が多いです。

刑法上も普通の証拠偽造罪以外に専門的に弁護士を適用対象とする弁護人証拠偽造罪が設けられ、弁護士は検察官との弁論において、できるだけ激しい衝突を避けることになります。

裁判過程において、検察官がひょっとしたら弁護人証拠偽造罪を利用して、自分の面子を潰した弁護士を片付けることもあり得るからです。

私見として、中国が真に法治国家になったと言えるためには、弁護士が法廷で検察官を指差しながらと堂々と弁論することにあると考えています。


中国において、日本企業の事案を担当する場合に、気を付けている事、難しいと考えていることを教えてください。

中国において日本企業の事案を担当する場合、法律以外の要素の影響を受ける場合が多いです。
非訴訟業務ではあまり問題ありませんが、訴訟業務の場合には、日本人又は日本企業を代理して、法廷に出るのはかなりストレスを受けることになります。

たとえば、裁判に対し、歴史上の原因による反日感情が吹き込まれ、日本人または日本企業の代理人である自体が自分の民族を裏切ったような雰囲気になってしまうことがあります。

能力の低い裁判官の場合は、法廷で法律と関係ないつまらない話を日本人又は日本企業の代理人に聞かせることもあり、内心からは「お前が裁判官か?」と叫びたい気持ちになることもあります。

しかし、どの国の裁判官もそもそも人間であるので、裁判には必ず感情が入るものかも知れません


理想の弁護士像について、教えてください。

ドラマとかで見た優秀な弁護士像は、法廷に立って勢い込んで相手側を窮地に陥れる饒舌な弁護士であるかも知れませんが、私はこのような弁護士があまり好きではありません。

弁護士は正義の守護神ではありませんが、当事者がトラブルの解決を依頼した場合は、先ずその原因を調べ、相手側の立場に立って考えて見る必要があります。

本当に優秀な弁護士は、先ず色んな人生を経験し、世間の喜怒哀楽を自分の身で経験した立派な人間性の持ち主であると考えます。

ただ、法律条項しかしゃべらない弁護士、自分の依頼者の利益しか考慮しない弁護士は、所詮普通の弁護士であると考えます。


将来、どのような事案を担当したいですか。

将来は、主にM&A、破産、清算及び国際訴訟などの事案を担当したいと考えています。


印象に残る本について、教えてください。

日本で読んだ『天使の梯子』(村山由佳著)という本です。
恋愛小説ですが、非常に美しい書き方で、本当に素晴らしかったです。








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