ロボット裁判




ロボット裁判の現在未来

被告席に座るロボット

インターネットで遊んでいたら、面白そうな話を見つけたので紹介します。
タイトルは「無人島日記」、ブロガーは「ピンノ」氏と名乗っています。なんでも貝に寄生して一生を終わる蟹の名だそうです。
(属名Pinnotheres 科名カクレガニ)

日記は、「ロボットの裁判と死刑」と題され、2007年2月8日に書かれたものです。とても短くて走り書きのようですが、まず、ロボットが犯罪を犯したとして、ロボットに罪を問えるのかと問題提起します。

「人間を殺害したロボットが法廷に立たされたとしよう。彼には人工的な人格があり、自律的な行為をする能力を持っている。だから彼自身の責任を問うことはできるのだ、というのが検察側の主張だ。これが飼い犬とその飼い主という関係ならば、飼い主の責任は当然問われるし、欠陥のあるガス湯沸器なら製造した会社の責任が問われるわけだ。」

この話、あるロボット製品を買い求めた消費者がロボット製品の不具合によって事故を起こし、その損害賠償をロボット製造者側を訴えた、裁判劇と読むこともできそうです。

あるいは、人知のレベルは別にして、現代社会でもロボットスパイは存在します。飼い犬ロボットが競合他社の機密事項を盗み出したとしても、常識的には、飼い主である会社側が当該スパイ行為で訴えられることになるでしょう。

しかし、ここでは、ロボットは被告として法廷に立たされています。検察の主張では、会社側の責任も問いたいのですが、この場面では、会社側は証人として出廷しているにすぎないようです。

いずれにしても、被告席に立つ以上、被告「人」ロボットは、知能を有する「ヒト」として認知されたということになるのでしょう。

現在、我が国においては、法学上、「ヒト」がいつの時点で「人」になるかといった論議はあるようですが、「人」と「動物」や「ロボット」との区別については、問題視されていません。

法律体系も、その記載において、一般人の理解する「人」と「動物」や「ロボット」との区別をそのままあてはめることに何らの支障もないと考えているようです。

たとえば、刑法第199条では、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」と書かれています。文言上、殺人犯を示す「者」とは、人に限るのか、人以外も含まれるのか、そもそも人とは一体何なのか、明確な定義は存在しないのです。

ただし、人とロボットの区別を定義付けが必要となる時代は、そう遠くはないと考えられます。今でさえ、人を識別できる程度の人工知能が実装されたクルマが暴走し、プログラム自動変異によって明確な殺意と意図をもって、ある特定の通行人を跳ねた、というようなことは十分に起きそうですね。

法律は、今から「人」に関する記載を始めておいた方がよいと思います。

いずれにしても、裁判所が人知ロボットの犯罪を問う場合、飼い犬ロボットに責任能力は存在するのか、が争点となるのでしょう。そして、責任能力が問えるとして、今度は、飼い主側に会社法上の監督責任が問えるかが問題となります。

ブロガーの日記に戻りましょう。
今度は、証人、ロボット製造会社の反論です。

「ロボットは完全に自律的な行為をするのだから、不正行為の責任は全てロボット自身にあるということである。」

つまり、会社の言い分としては、製造者あるいは保護者としての責任はないということですね。

でも、「完全に自律的な行為をする」からといって、このロボットは「ヒト」であると、責任が問える、ということは簡単には言えません。

オウム事件に関連して、次のような記録があります。
「マインドコントロールされた人間は、肉体的にも精神的にも自律性や自由意志を奪われ、他人に支配され、魂のない抜け殻のようになってしまい、論理的な善悪の判断をする能力を失い、教祖のいかなる破壊的な気まぐれにも服従するようになる。」
この紋切り型の学説に対し、終始事件を追跡したあるジャーナリストは、「判決は、マインドコントロールの影響について、冷静で目的に添った行動をしたとの理由で否定的にとらえたが、理解不足だ。マインドコントロールの下でも合理的な行動をする」と意見を述べています。


「さて、有罪が決定したロボットに死刑の判決が下されたとしよう。どうしたらロボットを死なせることができるか、ということで再び議論が起きる。ロビン=ウィリアムズ演じるアンドリューNDR114は苦労して人間の肉体を手に入れて死ぬことが可能になったわけだが、ロボットとして死ぬということは可能だっただろうか。」


かくして、ロボットの責任能力が認められ、ロボットには死罪が言い渡されました。彼は、処刑台に立ちます。

ここで、2つ目の問題提起です。
いったい、ロボットに死は訪れるのでしょうか。

ブロガーは、最後に、ロボットの死刑執行に伴う問題について書き残しています。

「もしロボット自身が自分の記憶のバックアップをとっていたとすると事態はやっかいとなる。(念を入れてコピーをいくつも作成してどこかに保管していたらどうするのか。)」


ロボットが裁判する

ピンノ」さんのショートショートでは、ロボットが犯罪を犯し、被告人として裁かれ、死刑囚として運命をたどるというものです。

それは、近未来のロボット社会としての寓話として読むこともできますが、荒唐無稽な話ではありません。現実に起こりえるでしょう。

このシリーズでは、それより少し現実に近い、現在、進んでいるロボットに焦点を当て、レポートします。

犯罪捜査に利用されるロボット、司法裁判システムに活用されるロボット、刑務官や死刑執行者を補助するロボットなどです。

あるいは又、ロボットは裁判官の代替頭脳として可能か。そうなると、被告席に座るロボットの話を超えて、もう神の領域ですね。


本シリーズでは、次のようなテーマでレポートしていく予定です。

  • Ⅰ法律と人工知能
    • 法情報学
    • 法と人工知能学
  • Ⅱ研究動向
    • 量刑予測と量刑判断
    • ・・・・






取材構成
本シリーズは事件研究班が担当します。
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